Horst Antes "Funf Hauser" 2001, lithograph, 110 x 320 cm, ed.35
ホルスト・アンテスの「家」について Peter Anselm Riedl(訳:野村太郎)
家という隠喩がカバーできる意味の範囲は、形と色とのさまざまな変化の領域と同じ く広い。保護されること、根をおろすことへの欲求は、家の最も単純素朴な暗示的意 味であり、肉体と精神の二元論への示唆は、そのもっとも複雑なそれである。人類の 歴史上、家は人間を集団から引き離し、その結果個の意識を成立させる前提となった 。アンテスにとって家は、それによって形式も内容も並外れなものを手に入れる描画 のテーマとなった。(中略)アンテスが描く家の絵を美的な作品として眺めると、わ れわれは次のような諸特色をあげねばなるまい。−確固とした画面構成。家という型 式の、大小さまざまながら釣合いのとれた長方形へのたくみな適合。立体幾何学と平 面幾何学との双方に価値ある諸要素の効果的な対比。色彩の精細な取扱い(とりわけ 暗いグレーの段階(スカラ)の扱い)。平面に描きこまれた筆跡を思わせる描線の自 己主張の確保。 とは言え、その自己主張を押し通す表現力を言葉では説明しにくい という難点が、絵画一般に対してかなり現実離れしたいろいろのレッテルを貼ること になる。われわれはアンテスの絵を間近に、距離をおかずに見なければならない。た とえば黒鉛のグレーとマンガンのグレーおよび光り輝くブルーの三色の和音に、進ん で身を委ねなくてはならない。そこには、われわれがまだ一度も耳にしたことのない 色彩の音楽がある。そこには血の通わない個所などみじんもない。